“キミの隣り” (番外編2)
人を愛し大切に思うのは決して悪いことではない。
誰かとの絆を愛惜しむのも然り。
ただ…他の人ならいざ知らず、
わたしと彼とは微妙に別口で。
限られた狭さでの深き固執を抱いてはならぬ、
彼にしても、広く全ての人に対して
区別なきアガペーを持つ存在とされており。
その理屈から言えば、
お互いしか見えないような深い愛憎の念を抱いてしまうのは、
微妙にいけないこととされているというに、
何のこれしき、
自分たちがしっかりしていれば良いってだけじゃないの、と
圧しに弱くて天然で、
危なっかしいこと この上ない“彼”から言われてしまい。
胸が潰れそうなほどきゅうきゅうと苦しんでいたわたしへ、
もっと早く訊いておれば良かったねと、辛かったろうねゴメンねと。
それに関しては、とても真摯にいたわってくれた彼だったものだから。
ま・いっか、と
その頼もしい肩へおでこを預けて、うんって頷いた。
二人で頑張るなら 成程大丈夫だろうって。
そう、二人で想い合っているのだからって。
とりあえず、肩の荷を半分こすることに決めた。
イエスのみならず周囲からも
“しっかり者”と把握されているブッダだけれど、
それはどうかなと この頃ふと思う彼なようで。
大好きな人、大切な人が出来たことへの疚しさはない。
でもね、今度はそれとは別な意味合いから、
ついつい気後ればかりしている進歩のなさよと、
こそり 臍(ほぞ)を咬んでおいでな様子。
「ブッダ、何してるの?」
「ん~? つけおき洗いをね。」
小さな六畳間でのシェア暮らし、
節制とか健康管理とかを考えたらと、
炊事と食料の補完は主に几帳面なブッダが受け持っており。
その延長で、
調理道具やふきんなどの管理へも気を配っているものだから。
日ごろ使いの食器は二人で一緒に洗って片付けるものの、
たまに、徹底してコンロ回りだの換気扇だのを磨いたり、
ふきんや菜箸をつけおき洗いで消毒してみたりと、
苦行、もとえ、特別枠の家事に勤しむことも多々ある彼で。
食後もなかなか居間の方へ戻って来ないのを、
イエスが首を伸ばすようにして“何しているの?”と訊くこともしばしば。
またまた、君って奴は…と苦笑される程度のことじゃああるけれど、
手際良くそれを片付けての さてと、
そちらはすっかりと寛いでいる居間へ遅れて戻る格好の彼なのへ、
あの“告白”以降は、あのあの…あのね?
「ブッダ、こっち。」
イエスがわざわざの声を掛けて来るようになった。
まだ寝るには早い時刻で、卓袱台も出してるまんま。
テレビでも観ようかという構えもいつもと同じだが、
声を掛けて来たイエスは、
ぽんぽんと自分の傍ら、すぐ隣の位置を叩いて見せる。
「~~~。//////」
「おいでよ、こっちvv」
丸い卓袱台、食事は以前と同じで向かい合って食べているけれど、
それは食器を並べる都合から。
向かい合ってて、時々意味なく視線が合うと ふふと微笑ってみたりして。
うん、そういう時は向かい合ってる方が楽しいのだけれど、
TVやPC、雑誌や新聞、
同じものを見るとかいじるというときは、
並んで一緒にのぞき込む方が楽しいじゃないと。
四の五の言うこともなく、
そんな所作一つであっさり示してくれるのが、
イエスのイエスたるところかと。
何せ、
「~~~~~。///////」
はいよとすんなり呼ばれるままになるのへ、
実は 数日かかったブッダであり。
もじもじと ためらう様子も可愛かったけどねとは、
後日こそりと、本人から当人へ囁かれたお惚気で。
つまらぬ勘ぐりじゃあないが、
主導権を握っているつもりなぞないイエスだろうことは明白。
ただ、しっかり者と呼ばれて来たブッダは、だが、
思慕や恋慕という感情は、油断をすれば妄執に繋がりかねぬと、
まだちょっと恐れているものか、随分と及び腰でいるようなので。
なので、だったらと
イエスの方から
果敢に“おいでおいで”をしているまでのこと。
なので なんていう順番も、彼の中にはないに違いなく。
アガペーと別口の好き、どっちも大事にすりゃあいいだけと、
言い切っただけはあるというところか。
「…どしたの? 手、気になるの?」
「うん、漂白剤の匂いがするから。」
「ありゃ。痛くはないの?」
「大丈夫だよ。ただ、良い匂いじゃないから。」
「じゃあ こうしちゃおう♪」
すぐ傍らに寄り添い合って、
互いの手をどうだこうだと取り合ってみて。
何とも幸せなひとときを導くのが、イエスの“おいでおいで”なワケで。
“…うん。”
だからね、
たまには こちらからだってモーションを起こさないと、
イエスに悪いかな…とか思うところが、
生真面目なブッダ様ならではだったりし。
特に予定もなかった、とあるお昼下がりのひととき。
ノートPCをお膝に開いたイエスが、
ブログの更新にいそしんでいる様子を
お茶を淹れつつ、家事をこなしつつ、こそりと窺い。
一区切りついたか、キーを打つ手が止まったのへ、
胸のうちにて 拳をぐうに握りしめ、こくんと息を一つ飲むと、
「…イエス?」
「んー?」
なぁにと顔を上げたイエスの、茨の冠に…小さなバラがポンと咲く。
だってサ、あのね?
「…こっち。」
洗濯物を畳んでいたので卓袱台はない。
畳んだタオルやTシャツのお山を、ちょっとばかり脇へと退けて、
四角い正座座りのまんま、開いた手のひらでとんとんと畳を叩く様は、
説教するからそこへお座りの所作にも、ちょっと見 似ちゃあいるけど。
“それだったら、真っ赤にはならないよねぇvv”
むしろクールなほど研ぎ澄まされての、
きりりと透徹なお顔になるブッダな筈だと、
威張っちゃいけないが(笑) ようよう知ってるイエスとしては、
「…うん♪」
判ったよと頷いてPCをパタリと閉じると、
ひょいと軽やかに立ち上がり、ほんの数歩の距離を詰める。
呼ばれたままに寄ってゆき、すとんと座って見せたのは、だが、
「…っ、い、いえすっ?」
「なぁに?」
せめて立て膝でもしておれば、脚の分だけ間が取れたのに。
ブッダが正座してるんだものということか、
同じよにお膝を折ったイエスがちょんと座って見せたのは、
何と ブッダの真正面、しかも膝同士がくっつく近さと来たもんで。
想定してないよ、近い近い///////、と
真っ赤になってののけ反って、思わず逃げの姿勢を取り掛かったが。
いかんせん、背後はすぐにも押し入れの襖だったため、
ぼすんと退路を断たれてしまう あっけなさ。
「何なに、呼んどいてそれって何よ。」
「いや、あの、だってそんなっ。//////」
立ち上がろうにも、
「あ…。//////」
正座していた腿を…軽くとはいえ押さえられては、
身動きもままならないよう、拘束されたよなもので。
「ふっふっふっ、まだまだ甘いなブッダくん♪」
「うう、//////」
わざとらしい二枚目調に決めたお顔を寄せかけ、
途中で ああと気がついての、
茨の冠 ほいと外して仕切り直す。
互いのおでことおでことくっつければ、
「ひゃっ、//////」
螺髪が解けての、頑なさを半分ほど軽減出来ようモードへ、
ブッダがいざなわれるのもお約束。
触れた瞬間、冷たいものでも押しつけられたかのように、
一瞬その肩をちぢこめたのも、ちゃんと拾ったイエスとしては、
“そんなに肩張ってるようじゃ、まだまだだね。”
こればっかは無理なんてしちゃあいけないし、させるもんですかと。
表情豊かな口元ほころばせ、だがだが深色の瞳はやや陰らせて、
何につけ勤勉果敢というのも この際は困りものだねぇと、
こそり苦笑したヨシュア様だったそうでございます。
~Fine~ 13.07.11.
*しまった、
ちょっとばかし大人っぽいイエス様になってしまったなぁ。
恋をして護らなきゃならない人が出来たので、
やや大人になったということで…。(おいおい)

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